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もう秋か。

 

——それにしても、何故、永遠の太陽を惜しむのか、

 

 

俺達はきよらかな光の発見に心ざす身ではないのか、

——季節の上に死滅する人々からは遠く離れて。

 
秋だ。

 

俺達の舟は、動かぬ霧の中を、纜〔ともづな〕を解いて、

悲惨の港を目指し、焔と泥のしみついた空を負ふ巨きな街を目指して、

 

舳先をまはす。あゝ、腐つた襤褸〔らんる〕、

雨にうたれたパン、泥酔よ、俺を磔刑〔たくけい〕にした幾千の愛欲よ。

 

 

さてこそ、遂には審かれねばならぬ幾百万の魂と死屍とを啖〔く〕ふ

この女王蝙蝠〔かうもり〕の死ぬ時はないだらう。

 

 

皮膚は泥と鼠疫〔ペスト〕に蝕〔むしば〕まれ、

蛆虫〔うじむし〕は一面に頭髪や腋〔わき〕の下を這ひ、

 

大きい奴は心臓に這ひ込み、

 

年も情も辨〔わきま〕へぬ、見知らぬ人の直中に、横〔よこた〕はる俺の姿が又見える、

 

……俺はさうして死んでゐたのかもしれない、

 

……あゝ、むごたらしい事を考へる。俺は悲惨を憎悪する。

 

 

 

冬が慰安の季節なら、俺には冬がこはいのだ。

 

——時として、俺は歓喜する白色の民族等に蔽〔おほ〕はれた

涯〔はて〕もない海浜を空に見る。

 

 

黄金の巨船は、頭の上で朝風に色とりどりの旗をひるがへす。

 

 

俺はありとある祭を、勝利を、劇を創つた。

 

新しい花を、新しい星を、新しい肉を、

 

新しい言葉を発明しようとも努めた。

 

 

この世を絶した力も得たと信じた。扨〔さ〕て今、俺の数々の想像と追憶とを葬らねばならない。

 

 

芸術家の、話し手の、美しい栄光が消えて無くなるのだ。

 

 

この俺、嘗〔かつ〕ては自ら全道徳を免除された道士とも天使とも思つた俺が、

 

今、務めを捜さうと、この粗々しい現実を抱きしめようと、土に還る。百姓だ。

 

 

 

俺は誑〔たぶら〕かされてゐるのだらうか。

 

俺にとつて、慈愛とは死の姉妹だらうか。

 

 
最後に、俺は自ら虚偽を食ひものにしてゐた事を謝罪しよう。

 

さて行くのだ。

 

だが、友の手などあらう筈はない、救ひを何処に求めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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