わたしが忘れがたいと想わせてくれる情景にはよく風が吹いている。

 

風は、いとも自然にわたしを向こうの世界に招き入れる。

 

頬をなでてゆく木漏れ日の
ただなかにいるような心地になったり

強い風が耳鳴りのように
いつまでも耳の奥であの日と同じように吹きつづけている。

 

砂丘から吹く風は
遠さ、遥かさ、せつなさの佇まいがあまりにも繊細で

いつもは自覚していない深いところまで
浸透し満たしてくれる。

 

満ち満ちて

満ちて果て

なにもかも溢れかえり

撮り終わったあと素晴らしい放心状態が訪れる。

 

 

いまも写真や構成だけでは語れない風が
わたしのなかで吹きやまない。

 

 

どれだけ哀しいことがあっても

ここにおいでと風がいう。

 

 

ここが哀しいのではない。

わたしたちの抱いている
それぞれの記憶の断片が哀しみを想いだすのだ。

 

 

写真は、それが視覚幻像として
すべてのひとに静かに降りそそぐ。

 

夜の雪のようにしんしんと積もってゆく。

真っ白な景色に運ばれ印象の眩しさに目を細める。

 

 

風が吹きわたる。

 

空虚な空へ、哀しみの昨日へ

海に、森に、水辺に

冷えた頬に

 

きめ細やかな皮膚に

あの日、美しさに痺れて

動けなかったたわたしに。

 

 

放心の悦楽のさなかに。

 

 

 

 

 

 

 

 

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