わたしがはじめてアルバイトをしたのは

近所の商店街の一角に建つ古本屋だった。

 

高校生だったわたしは、まるで世間から忘れ去られたような

古びた佇まいの古本屋の片隅で貪るように活字に浸った。

 

バイト先のご主人はフランス文学の研究者でもあった。

ある日、お店の一番奥にある美術書のコーナーから

小さな聖書のような本を取り出して

「これはね、あなたと同い歳の頃に書かれたのだよ。」

とオーナーは微笑んだ。

 

アルチュール・ランボーのため息が出るほど美しい古本を頂いたのは

4月の誕生日だった。

 

小林秀雄氏のアルチュール・ランボーとの出逢いについて

書かれている文章のこのくだりが好きだ。

 

 


 

「僕が、はじめてランボオに出くわしたのは、廿三歳の春であった。

その時、僕は、神田をぶらぶら歩いていた、と書いてもよい。

向うからやって来た見知らぬ男が、

いきなり僕を叩きのめしたのである。

僕には、何の準備もなかった。

ある本屋の店頭で、偶然見付けたメルキュウル版の

『地獄の季節』の見すぼらしい豆本に、

どんなに烈しい爆薬が仕掛けられていたか、僕は夢にも考えてはいなかった。

 

・・・豆本は見事に炸裂し、僕は、数年の間、

ランボオという事件の渦中にあった。

それは確かに事件であった様に思われる」

 

 

ーーーーーー『考えるヒント(4) ランボオ・中原中也』文春文庫より

 


 

わたしが ランボーの詩の中で

「永遠」の次に好きな作品が「蚤をとる女たち」だ。

これは小林秀雄氏の訳ではないけれど

15歳でこれほどの官能を描くとは今でも衝撃をうける。

 

今。

遠い記憶とともに薄茶色に色あせ染みだらけの美しい古本を手にとって

ランボーのように放浪の旅に出かけたくなって困り果てるのだ。

 


 

赤い嵐にみちた 少年の額が

白い夢の群れを 請いもとめるとき

彼のベッドのそばに 魅惑的な姉妹が二人

やってくる 銀の爪のか細い手をして

彼女らは少年を大きく開いた窓の前に坐らせる

 

青い空気がさみきだれた花花を浸している

露の降りた彼の濃い髪のなかを

彼女らの魅惑的で怖ろしい

か細い指がさまよう

 

少年は聞く

彼女らのおどおどとした息の歌うのを

におやかなバラの蜜の匂いをただよわせて

それもときおり途ぎれる 唇の唾を

のみこむのか 接吻したいと思って

 

香る沈黙のなか

彼女らの黒い睫毛の

しばたくのが聞こえる

 

電気のような優しい指が

美しい爪の下で蚤を潰す音が聞こえる

 

少年のもの憂い

ほろ酔いの心地なかに

いまや 彼には 「気だるさ」の酒がまわって

ハーモニカの溜息にも 我を忘れんばかり

 

少年は感じる

ゆっくりとした愛撫につれて絶えず

泣きたいような思いが生まれたり消えたりするのを

 

 

ーーーーーー「蚤をとる女たち」 アルチュール・ランボー

 

 

 

 

 

Model : 心月 mitsuki

 

 

 

 

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