パリに住む師匠から南の島に特有の影があると聞いたことがある。

 

太陽が真上にある赤道近くの島には

ある時期、一瞬だけ太陽が完全に真上になり

地上のすべての影が消えるのだそうだ。

 

朧げにしか覚えがないが

古い写真を整理しているとよく思い出す話だ。

 

影が消えるとは、つまり

目の前の事象、物体の真下に影が出て、

何も見えないという現象。

 

興味を持ってからずいぶん経ってしまったが

わたしはまだ、体感したことはない。

 

 

南の島を代表とする天高くから降りそそぐ光線は

影が短く、ドラマティックにならない代わりに

木も草も花も子供も大人も、のんびり横並びに座って

ただただ笑いあっているような平和な印象を受ける。

 

 

そうした見る側を深刻にさせない光の質というもの

確かにあると思うのだ。

 

逆に緯度の高い国ほど顔が険しい表情に見え、

なぜか、深刻そうなイメージが伴うもの。

 

それらは映像的ではあるのだけれど

最終的には好みの問題な気がする。

 

 

高い緯度から斜めに差し込む劇的な影がわたしは好きだ。

 

特に北ヨーロッパの田舎町。

 

都市部から1時間も車で走れば

閑散とした美しい村に出逢える。

 

そこで見ることができるのは、

人や車が無くなっただけで

信じられないほど透明感のある光の束だ。

 

 

土の匂いがする野原へ歩き出すと

草いきれとともに、

地上にこもったまま輝いている小さな雨粒に感動してしまうほどだ。

 

夏の、ザッとシャワーを散りばめたようなスコール。

一雨降ってチリが落ちると、

万物の輪郭がくっきりと浮き上がり

 

みずみずしい鮮やかさが目にしみて本当に涙が出てしまう。

 

 

心から綺麗だなとしみじみ感じる事は

歳を重ねるほど少なくなってきている。

 

心から綺麗だなと思うものを見ると

自然に涙が出てくることすら

すっかり忘れてしまっていているわたしを

春を呼ぶ3月色の空がキラキラと眩しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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