国境からの旋律
日々の泡, 白黒写実, 随想

国境からの旋律

 

 

 

 

 

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トランペッターとしてアメリカで活躍する男性と

3日間ほど過ごす機会があった。

 

ジャズの世界の若きエースだ。

 

 

彼は8歳の時にトランペットと出会い、

それから自分の情熱と人生をずっと音楽に捧げている。

 

十代の頃に母国キューバを飛び出し、トランペットを手に

独りニューヨークで15年以上生活している彼からは

揺るぎない美学を感じ、とても良いエネルギーを戴いた。

 

わたしはもともと質問の多い人なのだが、

こういった国境を賭けたプロフェッショナルと逢ってしまうと、

機関銃なみの質問を浴びせてしまう。

 

なぜ、トランペットなのか、他の楽器には興味がなかったのか、

一番好きな音楽家は誰、母国は好きか嫌いか、

 

ロックやパンクは聴くのか、自分の能力をさらに向上させるために

どんな努力を日々しているのか、

自分の才能を疑ったことはあるか、違う仕事をしたいと思わないか、

 

今までそれくらいのトランペットを所有したか、

目指すミュージシャンはいるのか、それはトランペッターか、

どうしてジャズの演奏は即興なのだと思うか、

 

良いジャズミュージシャンは何が違うのか、

マイルス・デイヴィスはなぜ凄いのか、

アメリカの文化をどう楽しめばいいのか、

母国へ戻って演奏したいと思うか・・・

 

 

 

コミュニケーションはボールを相手から自分へ

自分から相手へというキャッチボールであるべきなのに、

彼にとってわたしはボールを一方的にどんどん吐き出してくる

バッティングセンターのマシーンのように感じたかもしれない。

 

 

数週間後、アメリカに帰った彼から、1枚のCDが送られてきた。

彼が演奏するジャストリオのCDだった。

 

 

わたしは昔から好んでジャズを聴く。

いつもただ漠然と、その旋律が心地良いかどうか、

自分の心に響くかどうか、それだけの基準で。

 

 

もっと言えば、本を読んでくつろいでいる時、

猫の隣でまどろんでいる時、時間のかかるオーブン料理を

作りながらキッチンに立つ時のBGMとして聴いている傾向がある。

思わず細かなパーツまで聴き入ってしまうのは久しぶりだった。

 

 

彼と話しをしていて強く感じたこと、

それはジャズ音楽の聴き方、

捉え方、理解の仕方、演奏者としての表現の仕方、

 

そういったものがすべてわたしが思う写真の見方、

捉え方、理解の仕方、写真家としての表現の仕方ととても

似通っているということだった。

 

 

 

彼の音楽の聴き方は、絵画の筆の細かいタッチを隅々まで鑑賞するように、

すべての音を余すことなく聴き、

詩を読むかのように楽譜の中の行間を感じる。

 

 

大切なのことは、「その音楽が持つストーリーを深く理解することだよ」、

と彼はわたしに教えてくれた。

 

 

ストーリーを理解できる自分でいること、

そしてそれを正確に表現出来る技量を持っていること。

 

 

送られたCDの中に入っていた、あるジャズの名曲について、

このストーリーを彼は曲を聴くヒントとしてわたしに説明をしてくれた。

 

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人生とは時に悲しく狂気に満ちている

 

それでもなお、美しいと思っている一人の男がいる
 

 

雲ひとつない月夜に森の中を歩いていると美しい女に逢い、
男は運に身をゆだねて恋に落ち、すべてを失ってしまう。

 

家族も友人金も国さえも。
 

 

そして彼は思う 「それも悪くないね」
 

 

霧の濃い日、その愛は涙と華やかさに包まれ
男は蜜のような日々を送る

 

けれど森の女にとっては遊びであったことを知る。

 

去って行く女の後ろ姿を見て男は思う

 

どう生きたって心は悲しく狂っているのでれば
それでもやはり人生は美しい。
 

 

もし世界が私のものとなれば
女や金や恋がどうなろうと、
それは美しいものなのだから。
 

 

森の中でたった一人になって男は思う。

 

 「悪くないね」

 

男は明るい月夜の中を歩いて行く。
 

 

 

このストーリーとともに彼が送ってくれたCDを聴く。

 

どの部分は月の輝きを表現しているか

森の中の雰囲気を感じるか

男が言葉を発するときはピアノかトランペットか

それともドラムなのか、ふたりの本当の気持ちを感じ取れるか

男の狂おしさはどんなリズムでどんな楽器か。

 

 

演奏する彼にとって、森とは、

国を超越した魂の世界なのかも知れない。

 

 

これでもうこのアルバムはBGMにはなり得ない。

 

こんな豊かな世界を日々追求しているミュージシャンという彼らは、

まさに芸術家だと思わずにはいられないのだ。

 

 

写真も同じ、ただテーマを決めて撮っているだけでは足りない。

偶然が運んでくれているものをふくめ、

独自の深いストーリーを創りあげなければ。

 

 

そうして日々、感じることへ貪欲になれと

今も、わたしの部屋のアンプから流れる国境からの届いた旋律が狂的に囁く。

 

 

 

 

 

 

 

Time after time / Miles Davis Group

 

 

 

 

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