読む寫眞−Ⅳ
写真論, 随想

読む寫眞−Ⅳ

 

 

 

無秩序な写真的冒険

 

 

 

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A Period of Juvenile Prosperity
Mike Brodie

 

世界は今、強烈にリアルなものを求めている。

 

手のひらの中でグーグルマップをクリックすれば、

どこにでも仮想旅ができ、そこに何が存在しどんな景色かも知ることができる。

 

それで世界の輪郭だけを知ってしまった気がしているけれど、

それだけでは、手に触れられるような

リアリティを感じることはできない。

 

見えていたはずの景色も本物かどうか確かめようがない。

 

だから、わたしたちはリアルな感情を捜し求めるのだろう。

 

 

薄っぺらな表面上のカッコ良さや可愛さじゃなく、

もっと切実ななにか、いまの自分が

本当に向き合わなくてはならないことが

どこかに潜んでいるのではないか、と。

 

 

 

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今回、紹介する写真集「A Period of Juvenile Prosperity」について説明する前に、

わたしが戸惑ったことがあった。

 

 

『読む寫眞』で紹介する写真家や作品たちは、

一般的に写真史に残るような傑作をご紹介するようにしている。

 

その訳は簡単で、写真作品の普遍性という観点で

現代アートを見てゆくことがテーマだからだ。

 

しかし、いくら素晴らしいとわたしが伝えたところで、

これを読むあなたが、肝心の写真集を入手できないとしたら意味がない。

 

以前からお伝えしているように、

写真はプリントを見なくてはその本質へたどり着くことができない。

 

この決定的な理由がきっかけであなたの感性が喜ぶ一冊、

鋭い感性にぴったりな作家と出逢うきっかけになれば嬉しく思うのだが、

 

しかし、ここでわたしのジレンマが生まれる。

 

それは、写真集として確実に入手できる作品を選んで紹介する方がいいのか?

 

それとも、入手困難で専門店でプレミア価格を覚悟をしないと

見ることすらできない芸術の域の作品を伝えるべきか・・・?

 

 

仮にあなたが購入したからといって、わたしに利益がある訳でもないし、

悩むことはないかも知れない。

 

けれど、伝えたい作品や見て欲しい作品が、

圧倒的に入手困難で、高価過ぎるという点を考慮すると、

本当に届けたい人に届けられないような、そんな気がしてきたのだ。

 

 

つまるところ、モノクロプリントや巨匠クラスの

大物写真家ばかりご紹介するのでは面白くないし、NHKの教育番組みたいで堅苦しい。

 

なので、今回は珍しく若き写真家が残した、

新しいドキュメンタリーをお届けしようと思ったのが、

またここで心配のタネがある。

 

 

それは、衝撃的デビューを果たしたマイク・プロディという写真家は、

現在、写真活動を停止していて、

将来も活動する予定がないという前代未聞なクールな奴だからだ。

 

だから、まだ手に取ったことがない人は、早めに見て欲しい。

 

図書館へ訪れて、彼の写真集だけでも目に焼き付けておけば、

今後のドキュメンタリーや旅写真を見るときのレベルが

全く別次元に上がっていることだろう。

 

決してあなたを焦らすつもりはないのだが、

彼の作品集は今後、正規で購入することができなくなる可能性が高い、

ということだけをはじめにご説明しておく。

 

 

 

 

新しいドキュメンタリーの行方

 

 

 

 

誰もが自分の物語を持つことはもちろんだが、

その多くの場合それは個で完結する物語であり、

他人の興味を引くものにはなりにくい。

 

だが、マイク・プロディの写真を見れば、

それが私的なものであるにもかかわらず、

わたしたちを惹きつけ離さない何かを感じるはずだ。

 

それは、抜けの良い構図や、独特なフィルム使いが成せる哀愁のあるカラー、

若者による自分探しというテーマ、世界的弱者の本質、

さらには写真の順列といった作品構成の要素を差し引いたとしても、

なお強くわたしたちに驚きと見る喜びをあたえてくれるものである。

 

彼のストーリーを際立たせる魅力とは何なのだろうか。

 

 

2002年、退屈な日々を送っていたマイク・ブロディが17歳のときに、

遠くの友人に逢うために長距離貨物列車に飛び乗って

旅に出てしまうことから物語ははじまる。

 

行き先を間違って乗ったその列車が彼を運んで行ったのは、

数百マイル離れた土地だった。

 

その経験が彼の中でスパークした。

 

2年後、彼は、抑えきれない好奇心に再び突き動かされ、

貨物列車に飛び乗ることになる。

 

それは19歳の青年の、自分探しのあてのない旅の始まりだった。

 

その際、写真の撮り方もなにもわからない彼が手にしたのは、

友達から譲り受けたポラロイドカメラだった。

 

SX-70’ Time-Zeroフィルム ーここから彼の無秩序な写真的冒険が始まったのだ。

 

ひとつのフィルムイメージを注意深く、

宝石のようにフレームに収めるポラロイドに魅力を感じていた17歳の少年は、

 

やがてTime-Zeroフィルムの製造が終了することや、

35ミリで目に飛び込んでくるありのままを記録できることへ興味を抱き、

1980年製のニコンF3にカメラを変える。

 

そして、この旅の記録は2009年まで続く。

 

数年間の記録をまとめたとは思えない、時速50マイルで走る列車のごとく

流れるように脈々と配置された写真のコマ。

 

貨物列車への無賃乗車や、空き家での不法占拠を繰り返しながら

長年あてどもない旅を続け

 

そこに写し出されているのは、大人へと成長する

彼を形成するためには欠かせない人間関係、

降り立った場所で繰り広げられる放浪生活、

旅の様子が荒々しく写真に記録されている。

 

ページを追ううちに切ない気分になるのはどうしてだろう。

 

刹那的な危うさのなかから偶然にも時折顔を見せる、

人生の悲しみともいえる空気感。

 

それはまさにその瞬間、若さから生まれる葛藤を抱えた

彼にしか撮れなかったであろうものであり、

完璧なバランスで美の輝きを放ってわたしたちを離さない。

 

 

同時に写真というメディアの尊さをも改めて見直させる作品だとわたしは思う。

 

 

彼が飛び乗った列車の総走行距離は5万マイル。

車上や旅の途中に降り立った46の州で撮影したのは、

みな慣れ親しんだ人びとや場所だ。

 

それがこのストーリーの骨となり肉となって、展開されてゆく。

 

被写体との親密性を視覚化することが

ドキュメンタリーで重要であるというなら、

ここで撮影された写真はどれも生々しく親密性と真実に満ち

匂い立つような人間臭さが染み込んでいる。

 

危険とともに喜びが存在し、それらが美しく共鳴する。

 

彼自身の写し鏡のような被写体たちの存在を

写真に落とし込むことができたのは、

彼が “写真を撮るためにそこに居合わせたのではない” からではないか。

 

 

彼も撮られる側と同じ立場でそこに居合わせたひとりだ。

そうやって、自然発生した双方の距離感を実感し、

ページをめくるうちに、いつしかあなたも

この疾走する物語に引き込まれているだろう。

 

 

私的な写真記録は時として、自己満足に終わり、

人と共有する意味を見出せないことが多い。

 

 

本作品の写真集に「有名になりたくはないんだ。

だけど、この本がずっと記憶に残る1冊になることを希望している」

と彼は書いている。

 

彼自身、写真家になりたいという意思がなく、

自分の写真について話すこともほとんどない。

今後、再びカメラを手にすることもないかも知れないし、

新作を撮りはじめる予定もないという。

 

彼が撮影を止めたとしても、この作品集が在るかぎり、

多くの人びととの記憶に残ることとなったのは奇跡かもしれない。

 

 

彼が新しいタイプのドキュメンタリー作家であれば、

写真の価値は作品を作り続けてゆくところで高められるとは限らない、のだと

わたしたちは気づかされる。

 

今後、彼のように、決定的瞬間に居合わせ、それを捉え、

これが撮れたらもう満足なんだ、というところで

止めてしまってもいいのだという風潮が強くなるような気がしている。

その行為そのものが、ひとりの人間のドキュメントであると言いたげに。

 

 

マイク・プロディは、それをひとまずやり遂げてしまったという気がする。

 

 

あなたがもし、彼の作品を見て刺激されることがあり、

作品集なんて1冊で十分だ、と心に描きながら創作しているとしたら、

 

それは、あなたが本当に撮るべき写真は、

ドキュメンタリーかも知れない。

 

 

 

 

 

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A Period of Juvenile Prosperity

 

 

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2013年に発表されたMike Brodieファースト写真集。

17歳から始めた旅の中で、2003年から2006年の3年間に撮られた旅の記録を

色あせた色彩で表現している。

出版元のTwin Palmによると、彼が2004年から2006年まで使っていた

ポラロイドで撮影した写真は1000枚ほどあると言われていて、

現在発表を検討している。ファンからの期待は大きい。

 

 

 

 

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