読む寫眞 Ⅸ
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読む寫眞 Ⅸ

 

 

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Photo @Jeanloup Sieff

 

 

 

「難しいことはよくわからないけれど、

ずっと観ていたくなる写真集でお勧めは?」

 

 

うっとりと惚れさせてくれる写真に出逢いたい

そう想う人は多く、わたしも個人的によく聞かれる質問だ。

 

 

モノクロ写真はパッと見カッコよく思えるけれど

実際に手にすると、複雑でわかりにくく素人には難しい。

 

けれど、ゆったりとした時間に写真集をめくるのは好き、

もっと素晴らしい作品を知りたい…

 

今回ご紹介するのは、そんな写真世界の魅力に興味がある

あなたへうってつけの1冊。

 

 

 

『Jeanloup Sieff: 40 Years of Photography』

 

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傑作の多い写真家の、この1冊を選んだ理由は

写真好きの人で、中でもモノクローム写真を好きな人が

“ジャンルー・シーフが好きじゃないという人はいないから” だ。

 

少なくともわたしは出逢ったことがない。

 

考えてみると、これは凄いことだと思う。

 

 

ロバート・キャパやアンリ・カルティエ・ブレッソンのように、

人の人生の一瞬をかすめ取るような写真が

クールでタフだと感じる人が多いように、

 

ジャンルー・シーフの、意図的でありながら、

無作為のセンスが詰まった

重層的なモノクロームを単に難しく感じず、

世界中の人が惚れ惚れしてしまうということなのだから。

 

 

ちなみにわたしは

“写真は撮るのではなくて観るのが好き”という知人に、

この写真集を選んでプレゼントすることが多い。

 

 

写真集というのは高価なうえ、中身がわかりにくく積極的に買うことがないため

プレセントで贈られると嬉しいものだと聞く。

 

わたしが贈るこの1冊が、ドラマティックで妖艶なモノクロの世界へ連れ出してくれ

手にした人たちは初めて味わう、写真を愛でるという時間を体現する。

 

贈り主としては、人の心が潤ってくれたのならこれほど嬉しいことはなく、

彼の作品がわたしたちに与える影響の偉大さにあらためて触れることになる。

 

 

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Photo @Jeanloup Sieff

 

 

 

 

決して懐古主義ではないではない広角レンズによるモノクロ写真、

背景もライティングもシンプル、

パリの街角やアパルトマンという近距離の撮影、

カメラはライカとハッセルブラッドとニコンという王道……

 

そして何より、ページをめくっていると

誰でも挑戦できそうでいて、

高度なテクニックの迷路にはまるという

 

写真の持つ、蜜と毒の絶妙なバランスに誰もが魅了されてしまう

それがシーフの誘引力だ。

 

 

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Photo @Jeanloup Sieff

 

 

 

 

わたしが最後に彼の作品を観たのは

記憶に新しい2010年、東京写真美術館で開催された時だった。

 

「ジャンルー・シーフ写真展」は圧倒的にわたしたちを虜にした。

 

 

フィルムの細かい粒子が際立つモノクロームのポートレイトや、

フランスのモード写真は、どうやっても日本人には出せない

西洋人独特の洒落た空気感をまとっていた。

 

 

プリントは1作、1作の黒の濃さとか深みが違い、

滑らかであったり、作品によっては粒子を加えて

非現実的に仕上げられていて、丁寧な仕事ぶりが際立っていた。

 

 

ドラマティックな仕上げが一体どうなっているのか?と、

プリントの前でじっと動かずに凝視しているオジサマの数の多いことにも

彼の人気ぶりがうかがえた。

 

 

わたしも大好きな作品を前に動けなくなったひとりだった。

 

 

ライカに21ミリの広角レンズを駆使して大胆な構図に収めた

ランジェリーとその影の質感を受ける産毛の肌に

見ている人すべてを彼の美学へ引き込む。

 

 

素晴らしい存在感はさることながら、21ミリという超広角を使うと

歪曲が不自然に出てしまうのが普通だ。

 

だが、シーフの作品にはその歪曲が適度な不安定さと魅力となって

見る者に迫ってくるのだった。

 

写真家の腕の見せどころとも言える被写体との距離と

被写体に対するレンズの傾け方の微妙なコントロール。

 

彼の世界に引き込まれ、目が離せなくなってしまう理由の一つは、

本質的なテクニックがある。

 

 

シーフの作品には、モデルをただ広く写すのではなく、

レンズ歪曲を味方につける純粋な写真の上手さが隠されている。

 

ああ、そうだったと気がついた瞬間、

誰しも敬意を抱いてしまうのだろう。

 

 

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Photo @Jeanloup Sieff

 

 

 

 

 

このとき展示されたのは、

1950年代末から1960年末にかけての作品が多く見られた。

 

この時期は彼の青年時代にあたる。

 

珠玉の名作を前に、半世紀に及ぶ写真家人生を振り返るとき、

ひとりの青年が突き進んだエネルギーに驚かされた。

 

まさに、シーフの歩んだ時間が一枚一枚に封じ込まれているのだ。

 

 

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Photo @Jeanloup Sieff

 

 

14歳のとき叔父から誕生日プレゼントにもらった

プラスチックボディのフランス製カメラ『Boyer Photax』

通称「フォタクス」が彼の写真を始めるきっかけになった、

というエピソードはよく知られている。

 

だが写真家を目指したのではなかった。

 

写真機を知り面白くて夢中になっただけという

微笑ましい普通の子供時代だった。

 

彼は、ポーランド人の両親の元で1933年パリに生まれ

早く父を亡くし彷徨の幼年期だったといわれているが、

 

シーフはこの部分は多くを語っておらず、資料にも残っていない。

 

きっと孤独だったのだろう。

 

 

少年期には反抗精神が顔をもたげ、決して落ちこぼれた生徒ではなかったが、

リセ(高校)での授業をさぼって映画館に通い、

ジャズにのめり込み。シネマクラブの大人と交流して

繁華街クリシーの街角をぶらついていた。

 

 

数々の非行や出席日数おかげでリセは放校処分、そして転校。

シーフ少年は転校先でさらに不良行動は加速した。

 

そんな生徒でもバラロレア(大学入学試験)は哲学で

悠々パスしてしまうところが彼のクールなところだ。

 

そんな飄々としたポジティブなシーフは、

趣味の延長で暗室もプリントも独学だった。

 

自分の興味には没頭するタイプだったのだろう。

 

彼は詩も書いたし読書もたっぷり時間を費やした。

 

 

ぶ厚いプルーストにも挑戦して不良ながら文学青年になった時期もあったし、

誰もがそうであるように、ガールフレンド獲得に熱中したり

映画監督になろうとフランス国立高等映画学校への入学準備までしていた。

 

そしてこのタイミングでついに方向転換し写真の世界を目指した。

 

が、、、写真専門学校に籍をおくがここでもすぐに退散した。

 

 

 

シーフの略歴に必ずこの部分が記載されている。

 

「パリのヴォージラールで1ヶ月、スイスのヴベイで7ヶ月写真を学ぶ」。

 

3年ある学校を蹴飛ばし軽々と立ち去った理由は、

紋切り型の授業で時間を無駄にしたくなかった、と書かれてある。

 

 

写真技術はこれで充分、いまから自力で自由にやっていく。

シーフの資質である自信はピカイチだった。

 

売れる見込みのない写真を撮り続け

雑誌社に通い続けても容易にはヒットしなかった。

 

それでも繰り返し得意な文章を持って決して諦めなかった。

 

 

 

22歳のとき、雑誌「エル」に呼び出された。

この時はレギュラーの穴埋めの臨時仕事だったが、

結果はシーフの機敏な対応と

夜中に仕上げたプリントで腕前を認められることになった。

 

彼の作風はスタジオではなくストリートにファッションを持ち込んだ写真で

世間から注目されていた。

 

 

友人であり先輩にフランク・ホーバットと共に

50年代末にマグナムに入り、報道写真家を目指した。

 

しかし数ヶ月で終わった。

 

自分の道はここではないことを知ったのだ。

 

そして当時斬新な内容を目指していた「ジャルダン・デ・モード」誌で

ホーバットと共にフリーの仕事を選んだ。

 

すでにリチャード・アベドンやアーヴィング・ペンが

「ハーバース・バザー」誌と、「ヴォーグ」誌で競い合っていたし、

 

ウィリアム・クラインは写真を破壊しようとしていた。

 

ホーバットとシーフは、ハンディなライカで街の中のファッションの独自さを求めた。

 

 

 

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Photo @Jeanloup Sieff

 

 

 

 

 

こうして力をつけたシーフは1961年、ニューヨークに向かう。

 

シーフにとって輝かしいニューヨーク時代がスタートしていった。

 

当時、「ヴォーグ」と人気を二分していた「ハーバース・バザー」での仕事は、

青春のパワー全開といったところだろう。

 

モデルの恋人イナとヒッチコックを演技させて撮ったり、

自分のプリント作品をゴミ箱に放り込んで撮影したり

 

代表作となったパームビーチのアストリドなどのファッション写真が次々と生み出された。

 

 

青春は過ぎ1970年代になってより個人的な作品制作に移った。

 

絶対美しいと信じられるかたちのヌードや

寂寥とした風景写真に向けられたのだ。

 

カメラはニコンにライカ、ハッセルブラッドの3機のみで通した。

 

この頃の、写真家人生においてもっとも熱を帯びた時期の作品が

この写真集に多く寄せられている。

 

 

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ミステリアスな部分も多いシーフが、

ずっと立ち向かっていた道は、自らが切り開いた道だった。

 

世界は背のびすると道は誰にでも開かれているとわかるが、

その道は向こうから出てきてはくれない。

 

それは求めるもの者の力次第だ、と言葉ではなく

背中で語ってくれているのだろう。

 

 

 

 

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『Jeanloup Sieff: 40 Years of Photography』

 

 

 

 

 

P.S

写真史に名を残すジャンルー・シーフの愛娘ソニア・シーフの活躍も頼もしい。

父親譲りの才能とともに、意志的な美しさが印象的だ。

 

映像は日本のテレビに出演したときのソニア。

カメラの構え方が独特でチャーミングな人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2 thoughts on “読む寫眞 Ⅸ

  1. なにかをどこかで触れていただけたら本望です。
    こちらこそお読みいただきありがとうございます。

  2. ワイズマンの此処に賢者からの紹介で、読ませていただきました。
    ’どうしよう、涙がこぼれる。’
    心の琴線にふれることって、こんな感じだとおもいます。
    感激いたしました。ありがとうございます。

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