portrait 透明なまなざし
写真論, 白黒写実, 随想

portrait 透明なまなざし

 

 

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ポートレイトはいくら豪華な衣装を着ても

凝ったライティングをしても、

そこから滲み出る人間性や

その人の持つ美学が現れていなかったら魅力がない。

 

 

先日、ジャズトランペッターの方を撮影した。

 

彼はアメリカ出身でまだ29歳とう若手ミュージシャンだ。

ジャズミュージシャンというと強面で、

どこか挑戦的な印象の方が多いというのがわたしの定説だった。

 

しかし彼は、慎ましやかな声で挨拶をかわすと、

流れるように滑らかな日本語で場を和ませる

かなりのハンサム君だった。

 

スラリと長身な彼は、トランペッターになる前は

学生時代にモデルもやっていて、

今でもトレーニングは欠かさないという。

 

軽やかに羽織ったトレンチコートを脱ぎ、

撮影用の白いドレスシャツに着替えたときの胸の厚みや

彫刻のような骨格が、なるほどとスタッフを唸らす。

 

レンズに向ける悪戯っ子のような瞳が艶やかに光ると、

わたしは、ファインダー越しでドキドキしてしまった。

 

 

僕の人生はこれからもノーボーダーで

いつでも自分で決めて好きなように過ごしたい、

だから、ミュージシャンでもあり、

モデルとしても雑誌やCFに出演したいと

人懐っこい表情で抱負を語ってくれた。

 

 

「僕はね、人工的じゃない美しいものが大好きなんだ。

それと、コンテンポラリーなものより

伝統を受け継いでいくスタイルや、古典的な思想が好きだな。」

 

わたしは、トランペットを持つ美しい腕の曲線と

彼のこの言葉に感動を覚えた。

 

彼のような才能溢れる美しい若者が、

こうした哲学を持っていることへ喜びを感じずにはいられない。

 

そしてわたしも自然美を重視している。

写真の伝統的な手法の中に、独自の思想をミックスさせる方法を好み、

未だにモノクロフィルムにこだわって撮っている。

 

 

世の中にとって未知なる表現や、

誰も見たことのない写真を撮る意義は理解できる。

 

 

それは、彼の分野でいえば、今まで聴いたこともない吹奏楽器の演奏や、

新種のジャズを編み出すのも素晴らしいことだと思う。

 

しかし、彼もわたしも伝統を重んじてそれを研ぎ澄ます方が

自分たちのスタイルだと考えている。

 

「君のポートレイトの伝統的なスタイル、ずっと続けてね」

 

ライブのために初来日したモデルもする29歳のミュージシャンが、

伝統という言葉を口にし、古典が好きだと言ったとき

わたしは無性に嬉しかった。

 

想い出すと、身体の中で美しい旋律が流れているような

穏やかな気分になる。

 

 

その1ヶ月ほど前、現在フランスに住み、

国際的に活躍している建築家のWさんの撮影をした。

 

日本建築の骨頂である能舞台の教育を世界へ広めているという彼は、

渋さが滲み出た50代。

 

やはりとてもハンサムな方で俳優だと言っても通じてしまう。

 

撮影中、ときおり野獣のような静かで強い視線が光る。

 

けれど、「今度はやわらかい表情でお願いします」と促すと

たちまち優しい笑顔を作る器用な紳士だ。

 

建築家というのは、先生と呼ばれることが多いが、

彼の場合、周りの人たちから「棟梁」と呼ばれていていた。

 

古い歴史を持つ西ヨーロッパで、今のなお建築の研究に勤しみ、

毎日作業着を来て現場へ現れるという。

 

そんな彼は能建築という伝統の中心にいる方だ。

その上で、海外で大いに認められ、日本や世界で活躍している。

 

何十人もいる建築に関わる人々が、この棟梁の指揮に

全神経を集中させて働いていくのかと思うと、

ポートレイトを撮らせて頂く時の指先に緊張が走る。

正に大黒柱だ。

 

Wさんは数年前に何度か撮らせていただいたことがある。

去年の写真が特に気に入ったといい、

ヨーロッパで使う彼のプロフィールや

彼の創作した能舞台建築のサイトのトップページには

その時の写真が使われている。

 

日本での撮影の後に、決まって銀座へ繰り出し、

ほっぺたが落ちそうなお寿司を食べに連れて行ってくださる。

 

上質なバーやクラブでお酒を嗜み上機嫌になる姿を拝見すると、

気っ風の良い殿方から

生きることへの謳歌を教えられているようだ。

 

 

ジャズミュージシャンと建築家との

束の間の豊かな時間を過ごしたわたしは、

撮りためたポートレイトを選びながら、

ふと、この違いはなんだろうと思った。

 

彼らの顔には地に足のついた自信と、

何事にも動じない哲学が見える。

 

その堂々とした態度は、若手の俳優や

ミュージシャンのそれとはどこか違う。

 

若手の俳優やミュージシャンとお逢いすると、

「次の流行は何か?なにをやれば流行るのか?」

といった世間の評価に囚われているのかがわかる。

 

それに対し、世界がどうしていようが自分は自分、

という毅然とした理念の存在を感じるのだ。

 

 

こうした人生の哲学を持つことは単純なようでいて難しい。

 

わたしたちの心は今吹いている時代の風に敏感に反応し

風向きを気にしながら、流れに任せてしまう傾向が誰にでもある。

 

揺るぎない哲学を持ち続けるということの大変さは

世界で挑戦し続けるにはなおさら難しい。

 

それは、目を凝らし、肯定すべきもの、普遍的な賞賛に値するものを

見抜いてゆく力を備え、

いつまでも透明なまなざしでいることしかないのだろう。

 

 

刹那的にほんの一瞬目の前に立ち現れて、

何かあるものに宿り、

あっという間に消え去るような仮象から

自己が築き上げた美学という磨き上げた鏡で跳ね返す。

 

 

 

わたしは、印刷されたふたりのポートレイトを手に取り

余裕のある瞳に裏付けられた美学に想いを馳せながら、

 

彼らの、自分にとって最も大切なものを見失しなっていない

落ち着いた心の強さが、こうして写真に現れるのだろうと、

交わした会話を想い出し笑みがこぼれた。

 

こうした機会に恵まれたことに心から感謝して。

 

 

 

 

 

 

 

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