TOKYO BLACK
日々の泡, 抽象風景, 白黒写実, 随想

TOKYO BLACK

 

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TOKYOという異空間。

 

この街にいると時計の進むのが早く感じてしまう。

いつまでたっても慣れない。

 

訪れる人間のむせかえるような空気をかきわけ、

街を駆け抜け、ふと気がつくと

わたしはこの時、世界中のどの街よりも速いスピードで歩いている。

いや、人だけではない。

景色までもが狂おしく流れてゆくなか、

身体と意識のタイムラグに違和感を覚えながら

それでも立ち止まることができなくなる。

 

こんなの、わたしの速度じゃない。

 

昨日眺めたビビッドな景色でさえ、

今見ると違った景色に映るこの街に

無理に慣れることなどないと、自分に言い聞かせながら

逃げるように歩いている。

 

 

 

去年待ち合わせに使ったカフェが閉店し、改装工事をしていた。

本当にここにあったのかと思うほど、あっけなく姿を消し

わたしの脳裏からも消え去ってしまう。

 

再生ではなく、破壊だけが目の前に現れ、亡霊のように過去が漂う。

 

際限なく繰り返される破壊と再生は、

歩くたびにわたしの目に新しい何かを映し出し、

消えていった亡霊たちの影を粉々に散らして、時間を歪めている。

 

立ち止まってはいけない。

わたしは、彷徨うように歩き続ける。

 

折り重なるビルの合間のさらに奥にある古びれた喫茶店に入り、

冷たい飲み物を注文する。

喉が乾いたわけでも歩き疲れたわけでもなく、

雑居ビルの中へ潜り込んでしまうと、ほんの少しだけ

タイムラグを感じなくても済むからだった。

 

 

喫茶店の壁にかかった時計に目をやると、

小さい頃、おばあちゃんがつけていた化粧パウダーのような埃が被っている。

ここだけが時間の流れから取り残されてしまったかのようだ。

 

それでも針は規則正しく時を刻んでいる。

まるで呼吸だけをして眠りを貪っているように見えるこの空間は、

破壊されてしまうことを予期して、

亡霊の準備をしているように想えた。

 

わたしは体内の進み方をもう一度確認する。

バッグからカメラを取り出し、喫茶店の窓の外に向けて一枚シャッターを切る。

 

今ここで見た時間のうねりは写真にはとうてい写らないけれど、

それでも撮らなければと思うようになった。

 

写らないほうがいいものもある。

 

雑居ビルに囲まれた窓の外、スーツ姿の男が、

なにかに追われるように足早に去ってゆく。

 

この街の速度に振り回されて、時計のねじを壊されるなんて耐えられない。

 

わたしはとっくに氷の溶けたグラスを飲み干し、

底に残った甘ったるいガムシロップを口に含むんだまま

路地裏に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

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